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プロテアーゼ関連の研究

プロテアーゼ（エンドペプチダーゼ）
熊本というか九州には、かなり高度の温泉が身近にある。そんな温泉から面白い耐熱性のプロテアーゼなど取れないだろうか。そんな次第で、熊本赴任早々に始めたのが、熊本付近の温泉や土壌を対象にしたプロテアーゼ生産菌のスクリーニングであった。プロテアーゼについては、昔から手掛けていたので、慣れていたためか、クマモリシン（kumamorisin）と命名した新規な酵素が取れたのをはじめとして、以来13年間に、ユニークな、幾つかのプロテアーゼやプロテアーゼインヒビターを得る事が出来た。

a.クマモリシン：
私たちは、さきに酸性プロテアーゼの特異的阻害剤 S-PI（ペプスタチンAc）を発見した（1970年）。この阻害剤は当時知られていたペプシンをはじめとする、ほとんどすべての酸性プロテアーゼを阻害した。そこで、この阻害剤に阻害されない酸性プロテアーゼが得られると、それは新規な酸性プロテアーゼであろうとの考えから探索を進め、酸性プロテアーゼ、Scytalidopepsin A （EC3.4.23.31）、B（EC3.4.23.32）と命名登録された新規で特異性の高いユニークな酵素の分取に成功した。さらに、S-PIのおかげで、 Rhodotorulapepsin（EC3.4.23.26）という酸性プロテアーゼを得る事もできた。
　これらの酵素については、既に紹介した（福井・別府編『スクリーニング技術』講談社、1985）が、熊本には阿蘇をはじめ、多くの高熱性の温泉がある。これらの泉源の熱水からScytalidopepsinと同様、 S-PIに非感受性で、耐熱性の酸性プロテアーゼは得られないだろうかという事で、スクリーニングを行って得られたのがクマモリシンと命名したS-PI（ペプスタチンAc）非感受性、好熱性酸性プロテアーゼであった。
　この酵素生産菌は阿蘇の温泉から分離したのもので、70℃の温泉に好んで生育する好熱性のグラム陽性のカン（桿）菌であった。生産される酵素は好熱性の酸性プロテアーゼであり、分子量40,000、等電点 3.5、最適pH4.0、酸化βーインスリンB鎖に対しては Leu(15)-Try(16)の一ケ所のみを加水分解した。合成基質に対する作用より、切断点の両側のpサイト、p'サイトにそれぞれ5～6個のアミノ酸を要求する事が明らかとなった。これらの結果から、この酵素はかなり大きな基質を要求するようで、できるペプチドは12～14個以上である事が予想された。
　このような結果から、この酵素はS-PI非感受性、酸性、好熱性、切断点の特異性などから、全く新規な酵素と考えられたので、分離源の熊本県と熊本工大に因み、クマモリシンと命名した(J.Biol.Chem.、 1993)。
　1992年、サーモプシン（Thermopsin）と命名された好熱性、 S-PI感受性酸性プロテアーゼが発見され、EC3.4.99.43と登録された。私たちのクマモリシンも近くECナンバーに登録されるものと思う。

b.マシキノシン：
食用とする肉は筋繊維タンパク質（横紋筋）で、骨に結合するコラーゲン繊維やエラスチン繊維が組み込まれている。いわゆる食肉にはスジ（筋）がある。特に労働牛、老牛や輸入牛にはスジが多く、硬いらしい。このような硬い肉を柔らかくして、旨く食べる方法はないだろうか。このような希望から、スジのみに強く働くような酵素（プロテアーゼ）が求められていた。一般に肉は20種類のアミノ酸で構成されるタンパク質であるが、前者は硬タンパク質といわれ、四つのアミノ酸Gle,Ala,Pro,Hypを主成分とするコラーゲン分子が束状に結合した繊維である。また後者はGly,Ala,Val,Proを主成分とし、肺・大動脈血管のように、ゴムのように伸びる結合組織繊維である。
　そこで、筋繊維タンパク質（肉）に含まれるコラーゲンやエラスチンのような繊維タンパク質（スジ）のみをうまく消化するためには、Gly,Ala,Val,Proのみに強く作用するエンド型の酵素が必要なのではなかろうか。私たちは、すでに多くの種類のプロテアーゼ阻害剤をもっていたので、これらの阻害剤を利用して、上記アミノ酸のC-末端側を加水分解するような新しいプロテアーゼのスクリーニングを行ってみた。
　その結果、セリンプロテアーゼに属する新規な酵素（SN-22 Protease）をとる事ができた。その諸性質を表2に示す。この酵素が Gly,Ala,Valのみに高い特異性をもつ、きわめてユニークな酵素である事が分かった。
　そこで、この酵素生産菌の分離源である熊本県益城町に因み、この酵素をマシキノシン（Mashikinosin）と命名した。この酵素は試薬として和光純薬より市販されている。ご利用下さい。